森田療法と食生活
『うつヌケ』の著者の田中圭一さんが”うつトンネルを脱出するきっかけになった本”というふれこみです。いまやベストセラー作家の仲間入りをした漫画家の誕生にかかわった一冊です。
『自分の「うつ」を治した精神科医の方法』 宮島賢也著 216頁 KAWADE夢新書 定価760円(税別)
著者は立派な現役の精神科医です。うつ病の罹患者の急増はいまや常態化した社会現象といえるでしょう。必然、精神医療の現場でのご活躍と比例するような激務は、精神科医といえど心身の健康に重大な影響があり、ありていにいえば一人の生身の人間でしかありえないということになります。
その辺を本書の目次でひろうと
”激務の毎日、そして僕もうつになった”
”自分のうつも治らない、患者さんのうつも治せない”
”「薬」では僕のうつも患者さんのうつも治せない”
本書は、生々しい医療現場の当事者からの報告であり、日々の葛藤が赤裸々に綴られています。
著者に大きな転機をもたらした一冊の成功哲学の本があります。この書籍との出会いが、うつのトンネルの先のかすかな光明につながりました。書籍が取り持つ縁といえるでしょうが、宮島さんの書籍を知り得た幸運が、田中圭一さんの症状の克服にもつながっています。
同じように、わたしたち神経質の性格特徴を有する者も悩みや不安の転機につながった共通の書籍体験があります。
そのような一冊が『森田式精神健康法』長谷川洋三著です。どれだけ力をいただいて今日の等身大の自分になりえたか、計りしれない幸運があったといえます。
本書の第三章は、うつと心の関係を読み解くさいの著者からのプレゼントといえるでしょう。ここは、たぶん間違いなく森田療法・森田理論につながる関係性を有しているといえます。
しかし、わたしが着目したのは第5章の”僕は「食生活」を変えてうつを克服した”にあります。長年にわたって、正食療法や食養理論に研究テーマをおいて料理実践してきましたので、肯けることが多かったのです。
ここは、稿をあらたに別のテーマ「森田療法と食生活」にまとめていきたいと考えています。
ここから食事と森田療法を考えていきます。第5章は、体はそれを望んでいるー僕は「食生活」を変えてうつを克服したとあります。考え方を変えること、食事をかえることの具体例が提示されています。共感したのは、玄米食に野菜を中心に切り替えられたことと節食を心がけて食生活の大切さを説いているところにあります。
アメリカで普及している食事療法「ナチュラル・ハイジーン」を取上げるとともに、日本の食事療法である甲田療法にも言及されています。以前から甲田療法に興味がありましたので、宮島先生からバトンを受けて別の書籍の再読で考えてみたいと思います。(西式甲田療法の甲田光雄医師はすでに亡くなっており、甲田医院も閉院しました。成人病や慢性病の原因に現代の飽食があるとするなら、甲田医師の著書に目を通してみる価値はあるでしょう。)
『心を癒す 体を治す』自然療法の鉄人たち 平野勝巳著
PHP研究所1997年出版238頁 定価1500円(税別)
横浜で自然食品をテーマにした店舗運営に実験的にかかわっていた時に、あるセミナーで紹介された書籍でした。森田療法とも深い関係にある目次が目につきます。主だったところでは
第1章食といのちでは、
小食・断食療法で難病を次々に治すー甲田医院 甲田光男氏
土からの医療を実践し食こそ命の源と説くー竹熊宜孝氏
手術も注射も薬もやめて玄米菜食療法を実践するー小澤博樹氏
第2章こころの力では、生きがい療法でガン治療に臨むー伊丹仁朗氏
第3章自然なこころ、自然な体では、重度の神経症に有効な森田療法の普及に尽くすー岡本常男氏/黒川順夫氏
第4章健康をつくる食品では、玄米発酵食品を通して正しい食生活を訴えるー岩崎輝明氏 など
著者は自然療法を、人間が本来もっている自然治癒力を蘇らせる療法としてとらえています。一般的な西洋医学療法に対しての自然療法であることも強調しています。
ここでの数々の事例として取り上げられている効果、奇跡的な改善例に共通するものにもっともふさわしい言葉があるとすれば、それは「自然療法」になります。さらに鉄人たちに共通するのは、食事(玄米菜食)の大切さと、心の大切さであることにも深い意味を感じました。
本書を通して玄米菜食をベースにした病気治療に注目していただけたら、本書を手にすることの意義があると著者は述べています。心身同一の立場からいっても、今後もっと食事の問題に取り込むことの必要性を感じました。
著者の提言は続きます。「病気の根源は心だ」という、かなりラディカルな考え方を治療現場で実践し、効果をあげておられる医師の方々は決して少なくはない。病気の根源が心だとしたら病気の治療は、心の治療なくしてありえないことになろう。
本書の主題「心を癒す からだを治す」は正しい食事と正しい心が中心で、この2つのキーワードを胸にとめて一読していただければ、一歩ふかく鉄人たちの真意に近づくことが出来ると結んでいます。