全集第5巻読書会と体験交流を毎月開催中

「森田先生の人間観とは?」
「森田療法・理論の世界観とは?」
全集5巻を通して、森田先生の時代に立ち返り、日々の生活と森田療法の学びが交差するような、温かな時間になればと思っています。

大切にしたいのは、ただ「知る」ことだけではなく、自分のこころの事実にふれてみること、そして、それを言葉にしてみること
読書の中で心に残った一節、自分の生活でふと気づいたこと、今まさに感じていること――それぞれが率直に語り、じっくりと耳を傾ける時間といたします。

●メンバーとの共通する感情に「ああ、そうなんだな」と気づくこと
●浮かんできた想いを、そのまま言葉にしてみること
● 生活の中の小さな出来事を、具体的に分かち合ってみること
● そして、何よりも「共感」と「受容」を大切に、お互いの声を受け止め合うこと

こうしたプロセスを通じて、森田療法が目指している“あるがまま”の姿勢や、“生きる力”の源に、あらためて触れたいと思います。

大事なのは集うことの豊かさです。
読むこと、語ること、聞くこと――そのどれもが、人と人とのあいだに静かな灯をともしてくれるのだと実感しています。

毎回、日々の生活と森田療法の学びが交差するような、温かな時間をつくっていければと思っています。

第6回形外会ー昭和5年6月1日(午後3時開会、参加者27名)

森田先生のお言葉

・私の療法は自然良能によるもので、無理な過激なことをするものではない。

・不眠の工夫も自然に服従し境遇に従順なら、無理をしないで周囲に適応するようになる。

・例えば赤面恐怖は負けず嫌いであり、勝ちたがりである。

・自分の精神をやり繰りしようとするのが、精神修養家の最も陥りやすい誤りである。最も難しくかつ不可能のことである。

・我々は、日常、実際生活において、常に最も適当なる境遇に自分を投げ出しておけば、周囲の境遇さえ選ぶことを工夫すれば、最も世話のない話である。

物語 ― 自然のままに任せて

ある青年がいました。彼は長い間、不眠に悩まされていました。眠ろうとすればするほど、目は冴え、頭は重くなり、明日のことを思うと不安でたまらなくなる。そこで彼は「精神を強くしよう」「気を落ち着けよう」と、自分の心を何とか操ろうと必死になりました。

けれども、それはまるで、手のひらで水をつかもうとするようなものでした。掴もうとすればするほど、水は指の間からこぼれていく。

ある日、師からこんな言葉を聞きました。
「私の療法は、自然良能によるものだ。無理に過激なことをするのではない。眠れぬ夜があれば、そのまま目を開けていればよい。境遇に従い、無理をせず、自然に服従すれば、周囲との調和はおのずと回復してくるものだよ。」

青年ははっとしました。眠れないことそのものと闘うのではなく、「眠れぬままの自分」をそのまま受け入れる。すると、不眠を恐れる気持ちは次第にほどけていきました。眠りは、追いかけるものではなく、訪れるものだと知ったのです。

同じように、赤面恐怖で苦しむ人もいました。人前に立つと顔が赤くなる。彼は「人に負けたくない」「平然と見られたい」と強く思い、逆にその思いが彼を縛っていました。師は言いました。
「赤面するのは負けず嫌いだからだ。勝とうとすればするほど、赤面は強くなる。勝ち負けを手放し、ただ状況の中に身を置けばいい。」

人は、自分の精神をやり繰りしようとして、かえって自縄自縛になることが多い。精神修養家と称する者ほど、そこに陥りやすい。けれど、それは最も難しく、実は不可能なことなのです。

本当はもっと単純です。日常生活の中で、常に最も適当な境遇に身を投げ出していればよいのです。たとえば、眠れない夜は起きて本を読めばいい。人前で顔が赤くなったら、赤くなるままに話を続ければいい。境遇を選び、工夫して身を置けば、それがいちばん世話のない道なのです。

青年は、ようやく気づきました。
「心を変えようとするのでなく、境遇に従い、自然に生きることこそが大切なんだ」と。

そして、無理に自分を治そうとする執着から解き放たれたとき、彼の暮らしは静かに、しかし確かに、楽になっていったのです。

森田療法における 「自然良能(しぜんりょうのう)」 とは、人間が本来そなえている「自ずから治っていく力」「自然に回復していくはたらき」のことを指します。

自然良能の考え方の根底

  • 人間には本来、傷が治るように、心のバランスを取り戻す力が備わっている。

  • それを妨げているのは「こうあらねばならない」という とらわれの心 である。

  • とらわれを手放し、「あるがまま」に生きることが、自然良能を発揮させる道である。

要するに、森田療法における自然良能とは 「自分で無理に治そうとしなくても、自然に回復していく力」 のことです。
西洋医学でいう「自然治癒力」に近いですが、森田療法ではそれを 心の営み・生き方 に重ねて強調している点が特徴です。(代表幹事補足)