猛暑の中で問われた「卒業のその先」
――下丸子土曜集談会ルポルタージュ
8月23日、大田区下丸子。アスファルトから立ちのぼる熱気は、昼を過ぎても収まる気配を見せなかった。そんな猛暑の午後、私たちはいつもの区民プラザに集結した。
この日の参加者は14名(女性3名)。遠路水戸からお越しの講師の講話が聴ける日、講話テーマは今後の生き方につながる問いかけだった。
――「症状森田を卒業したら、私たちはどうすれば豊かに生きていけるでしょうか?」
まるで学びの「出口戦略」を問うかのようなタイトルに、参加者の表情は真剣そのものになった。
講師の軌跡――「私のこと」から始まる物語
講話はまず、講師自身の人生のスケッチから始まった。
子ども時代はどうだったか、学生時代にどんな壁にぶつかったか。社会人となってから悩みはどのように形を変えたのか。
「森田に出会って、私は変わった」
そう語るときの声は、決して劇的な変身譚ではなく、生活に根づいた小さな積み重ねの物語だった。基準型学習会に参加し、振り返りを重ね、社会人としての生活をどう保ち、いまどう過ごしているのか――。聴く者は皆、自分自身の歩みと重ね合わせて耳を傾けていた。
森田理論を学ぶとはどういうことか
「神経質性格とは何か」
「どう向き合い、どう対処していくのか」
講師の言葉は、一つひとつ丁寧に積み上げられた。森田理論の学習と実践、そして振り返り。それらのサイクルが、着実な成長を約束しているという指摘に、多くの参加者がうなずく。
「卒業」のその先をどう生きるか
そして本題へ。
「症状森田から卒業したら、私たちはどうすれば豊かに生きていけるでしょうか?」
会場には静かな緊張が走った。
「森田を学習できたから、もう大丈夫?」
「生活は不自由なく送れているし、発見誌も読んでいるから、もう大丈夫?」
講師は問いを投げかける。だがすぐに答えを与えない。代わりにこう促す。
「やはり、本来の“生の欲望”を見つめ、自分は何をしたいのかをはっきりさせてみませんか」
この一言を合図に、参加者はそれぞれの“生の欲望”を語り始めた。
参加者の声――「私の欲望は」
・「自営の仕事を維持し続けること。それが第一。加えて、家族の健康と朗らかな毎日を見守りたい。森田の視点で家族全体のリスク管理をしていきたい」
・「会社を定年退職した今、パートの仕事を続け、社会とのつながりを保ちたい」
・「教員生活をできる形で続けたい。空港や飛行機見学、宝塚観劇も欠かせない」
・「新しい派遣先での仕事を安定させ、趣味の筋トレを楽しみたい」
・「アカデミックな仕事で、さらに上のポジションを得たい」
・「教師の仕事多忙から生活多忙へ移行中。退職後の御朱印帳の収集は手放さず続けたい」
・「小学校の特別支援を非常勤で継続し、生活にリズムを持たせたい。図書館通いも欠かせない」
・「仕事と生活の張りを持ち、無駄だと思う時間を減らしたい」
・「高齢ではあるが、近場の旅行を重ねて生活を充実させたい」
・「求婚活動の成就が念願。カラオケで歌を披露して注目されたいし、体づくりにも励みたい」
どの声も素朴で、どこか切実だった。まさに「生の欲望」は人の数だけある。
最後に講師自身の欲望が語られた。
「金融機関を退職したあとは、営農生活に目標を立て、それを一つひとつこなしていくことです」
その言葉は実直で、しかし力強かった。
「あるがままになすべきを成す――この態度こそ至言である」
その言葉に、会場は深い静けさに包まれた。
納涼の一杯と語り合いの続き
閉会の後、有志5名が駅前の居酒屋へ。冷えた生ビールの泡がグラスの縁を伝い落ちる。
「乾杯!」の声とともに、午後の熱気はやわらぎ、語り合いはなお続いた。
「卒業のその先」をめぐる議論は、ここでも尽きなかった。人は症状を超えてなお、生き方を問われ続ける。冷たいビールが喉を潤すように、対話は心を潤し続けた。(代表幹事担当)
代表幹事のひと言ー9月のご案内にこめて
8月の下丸子は、真夏の太陽に包まれた一日でした。けれど、ただ暑かっただけではありません。私たちは「症状森田を卒業したら、その先どうやって豊かに生きていけるのか」という問いを、それぞれの胸の奥に持ち帰ることになったのです。
人は症状を手放したあとも、やっぱり何かを求めて生きています。仕事だったり、家族の健康だったり、趣味だったり。ときには恋愛やカラオケの歌声も。森田理論が示す「生の欲望」という言葉は、そんな願いのすべてをやわらかく包み込んでくれます。
さて、次回の下丸子土曜集談会では、その流れをもう一歩先へ進めたいと思います。
テーマはまだ仮ですが――
「欲望をどうかたちにしていくか」
「なすべきを成すという態度を、私たちの日常でどう実感できるか」
そんな話を、みんなで少しずつ、肩の力を抜いて語り合えたらと思います。
どうぞ、気楽な気持ちでご参加ください。冷たい麦茶でも飲むように、森田の学びを日常に取り込んでいけたら、それで十分なのです。