☂6月大田集談会のご報告です。

8日の大田集談会は、12名の参加がありました。内訳は、幹事5名になつかしいメンバーが2名。ほかに初参加者を含め男性3名、女性2名でした。当日のテーマは、下丸子土曜集談との合同DVD学習会が中心で、活発な意見交換と体験交流が出来ました。DVD教材は、森田療法セミナー(基礎理論・初心者編)で「森田療法とは~基本的な考え方」北西憲二先生のご担当でした。

パワポ資料で「理想と現実の自己のギャップ(精神病理Ⅲ)」の説明がありました。理想の自己は「かくあるべし」が肥大した自己愛の存在があり、強迫的コントロールの欲求につながっている。それを現実の自己にもどすこと、近づけるにはどうすべきか。感想として、肥大した自己は、同時に委縮した自己でもあること、等身大の自己とはなにか。メタ認知とコアビリーフの用語をつかって個人的感想を述べてみました。

7月の大田集談会は13日(第2日曜日)大田区立消費者生活センターの2階が会場になります。生活の発見会本部から派遣講師(女性)がお見えになりご講話の予定になっています。

☂宿泊費の謎を考えてみましょう。

女性3人が京都に旅行をしました。宿泊地の旅館で仲居さんに一人10000円の宿泊費を払いました。女将さんは30000円でなく25000円でいいとのこと。仲居さんは5000円バックのうち2000円を懐に入れました。そうすると一人9000円で3人で27000円、それに仲居さんの2000円をプラスすると29000円。あれ1000円が見つからない。この問題を解説して、さらに心理療法、森田療法に当てはめて考えてみます

 この「消えた1000円」の問題は、一見すると論理的な謎のように思えますが、実際は数字の扱い方に錯覚を生じさせるトリック問題です。そして、森田療法的な視点から見れば、私たちが「事実ではなく、気分や思い込みによって苦しみを作り出す」メカニズムに通じるものがあります。以下に分けて解説します。

論理的な解説:「消えた1000円」は錯覚

物語の構成:

  1. 女性3人が旅館に泊まり、最初に一人10,000円ずつ、計30,000円払いました。
  2. 実際の宿泊費は25,000円だったため、女将さんは5,000円返すよう仲居さんに託します。
  3. 仲居さんは内緒で2,000円を懐に入れ、残りの3,000円を3人に1,000円ずつ返します。

実際の支出とお金の流れ:

  • 女性3人は 1人9,000円×3=27,000円 を支払った。
  • この27,000円の内訳は:
    • 宿泊費として 25,000円(旅館に渡った)
    • 仲居さんの懐に入った 2,000円

つまり、27,000円はちゃんと使われています。

トリックの部分:

「27,000円(支払った金額)+2,000円(仲居さんの懐)=29,000円」と考えるのは誤り。
→ その 2,000円はすでに27,000円の内に含まれている から、足してはいけません。

正しくは:

  • 合計30,000円の内訳は
    25,000円(宿泊費)

    • 2,000円(仲居さんの懐)
    • 3,000円(客に返金)
      = 30,000円

消えた1000円は最初から存在しない。錯覚があるだけです。

森田療法的に読み解く:「消えた1000円」と“とらわれ”

1. はじめに:錯覚が悩みを生む構造

次のような場面を想像してみてください。

事実:お金のやりとりはきちんと処理されている。
気分:「1000円が足りない気がする」という違和感や不安が頭から離れない。
結果:実際には問題がないのに、頭の中で混乱が生まれ、悩みが膨らむ。

このような心の動きは、まさに森田療法でいうーとらわれの典型例です。


2. 「とらわれ」とは何か?

森田療法では、「症状」そのものよりも、「症状にこだわる心」が苦しみを生むと考えます。

気になる → 無理に解決しようとする → さらに気になる

この悪循環を精神交互作用と呼びますが、神経質な傾向がある人ほど、ちょっとした違和感を頭の中で反芻(はんすう)し、やがて実体のない不安に悩まされるのです。


3. 心理トリック問題に学ぶ:「消えた1000円」とは?

たとえば、次のような一見謎めいたエピソードをご覧ください。


■ トリック問題:消えたリンゴの代金

あなたは、1個300円のリンゴを5個買いました。
支払った金額は 1,500円。

後で店主が言います:
「今日は特売日で、5個で1,200円だよ」と。
そこで店主は、店員に返金として300円を渡しました。

ところが――
店員はこっそり100円を自分のポケットに入れ、
200円だけをあなたに返しました。

さて……

  • あなたは最終的に 1,300円 払ったことになります(1,500円 − 200円)。

  • 店員がポケットに入れたのは 100円。

ここで質問です:

1,300円(あなたの支出)+100円(店員の取り分)=1,400円? 残りの100円はどこへ?


4. 解説:事実を見落とすと錯覚が生まれる

この「消えた100円」のトリックは、足し算の視点に誤りがあります。

実際の内訳はこうです:

  • 店に入ったのは 1,200円(商品の代金)

  • 店員が取ったのが 100円

  • あなたに返ったのが 200円

合わせて 1,500円。
どこにも矛盾はありません。

ところが、「気になる数字(100円)」にとらわれた心は、本来無いはずの謎を勝手に作り出してしまうのです。


5. 森田療法の視点から読み解く

このエピソードは、単なる計算ミスの話ではありません。
むしろ次のように、心のメカニズムを教えてくれる教材になります。

項目リンゴの問題森田療法的な意味
表面的な悩み「100円が消えた」という錯覚症状や違和感への過度なこだわり
真の原因足し算・引き算の混同考えすぎ、意味づけのしすぎ
解決の糸口数字の全体構造を冷静に見ること事実に即して行動する
心理的教訓錯覚に振り回される気分でなく、現実(事実)に生きる大切さ

6. 結論:「事実唯真」の姿勢を取り戻す

森田療法では、「事実こそ真理である(事実唯真)」という考えを大切にします。

錯覚や気分に引きずられると、ないはずの問題を自分の頭の中で作ってしまう。
そうではなく、目の前の現実をそのまま見つめること。
それが、心の自由を取り戻す道です。


7. ワーク:あなた自身の「とらわれ」は?

このリンゴの話のように、「どうしても納得できない」「なんだかモヤモヤする」という経験は、日常にもたくさんあります。

そこで問いかけてみてください:

  • 今、自分がとらわれているのは「事実」か「気分」か?

  • 自分の頭の中で作り出していないか?

  • 本当に確認すべき事実は何か?


あなたの悩みの“消えた100円”は、もしかすると、心の中の錯覚かもしれません。

淡々と現実を見る。その積み重ねが、森田療法でいう「あるがまま」の実践につながるのです。