心理学というのは、時々不思議なものに感じられる。頭の中の奥深くにある秘密を少しずつ明かしていくような、そんな作業だ。まるで、長い時間をかけて海の底に沈んだ宝物を掘り出すようなものだ。けれども、何を掘り出すかは、決して一度でわかるわけじゃない。時には掘っても掘ってもただの砂ばかりが出てきたりする。でも、それでも掘り続けることが大事なんだ。
心理学が与える付加価値は、目に見えるものではない。心の中でじわじわと効いてくるものだ。例えば、ある日、自分の行動が予想外に他人を傷つけてしまったことに気づいたとき。そんなとき、心理学的な視点があると、その行動がどこから来ているのかを少し冷静に見つめ直すことができる。自分が何に影響されて、どんな無意識のパターンがその行動に絡んでいるのか、そんなことを考える。答えがすぐに見つかるわけではないけれど、少なくとも自分の行動に対する理解が深まる。その理解こそが、心理学がもたらす最大の付加価値だと思う。
心理学を学んでいくと、自分の感情や行動が一見ランダムに見えるわけではなく、いくつもの小さな理由が重なって形成されていることがわかる。それは、ちょうど古い本のページをめくるみたいな感じだ。最初はただのページの文字の羅列に過ぎなかったものが、次第に意味を持って現れてくる。自分の過去や経験、環境がどんな影響を与えてきたのか、少しずつ理解していく。その理解が、心の中で整理されていく感覚は、何とも言えない清々しさをもたらす。
でも、心理学の付加価値はそれだけじゃない。時には、他人を理解する力も高めてくれる。たとえば、友人が悲しんでいるとき、どうして彼がそのように感じているのか、どうしてその行動を取るのかを、心理学を通じて考えることができる。その時、相手をただ「悲しい」と見なすのではなく、彼の背後にある無意識的なプロセスに思いを馳せることができるようになる。その理解が、ただの共感を超えて、深い繋がりを生む瞬間を作り出すんだ。
心理学が与える付加価値は、静かに心の中に入ってきて、時には自分が見落としていた感情や考えに気づかせてくれる。それはまるで、夜の海を歩いているようなものだ。暗闇の中で何かを感じるけれど、すぐにはその全体像が見えてこない。けれども、足元の波が少しずつ足を洗ってくれるように、理解が少しずつ深まっていく。理解の深さが増すことで、僕たちの行動が変わり、考え方が変わり、他人との接し方も自然と変わっていく。
だから、心理学の付加価値は、答えを与えてくれることではない。むしろ、自分自身の内面や他人との関係に対する問いを深め、そしてその問いを受け入れる力を与えてくれることだ。その問いを受け入れることができたとき、私たちは初めて心の中にある未解決の部分を受け入れ、少しだけ前に進むことができるのだ。
森田療法というのは、どこか不思議な静けさを持っている。そこには大きなドラマもなければ、派手な解決策もない。ただ、静かに、自分自身と向き合う時間が流れていくだけだ。でも、その静けさの中に、確かな「付加価値」があることに気づくのは、しばらく後になってからだ。
例えば、ある日、心の中でうまくいかないことが積もり積もって、どうしようもない感情に押しつぶされそうになっているとする。何をしても気分は晴れない。そんな時、森田療法の考え方がふと頭に浮かぶ。つまり、無理にその感情を抑え込もうとせず、そのまま感じることを許す。何も無理に変えようとせず、ただ「そのままでいいんだ」と思うこと。それだけで、少しずつ心の中に隙間ができるような気がするんだ。
森田療法が与えてくれる付加価値は、心を無理に変えようとしないところにある。それは、まるで波が寄せては引いていくのを、ただ黙って見守るような感じだ。波が来るたびに、慌てて立ち上がって抵抗しようとするのではなく、ただそこに座って、波のリズムに身を任せる。どんな感情が来ても、その感情に対して無理に反応しない。その感情をそのまま受け入れることで、だんだんとそれが自然に過ぎ去っていくのを感じる。それが、森田療法が与えてくれる深い安らぎだ。
もちろん、最初はその方法がどうして効くのか、すぐには分からない。けれども、続けていくうちに、心の中で少しずつ変化が起こるのがわかる。自分の感情や思考に、もうそれほど縛られなくなる。考えが堂々巡りして、どうしようもない気持ちに囚われていたあの頃と、今の自分を比べてみると、その違いに気づくことがあるんだ。
例えば、何かのことで落ち込んでいたとしても、森田療法を少し意識していると、そんな自分をただ「あるがまま」に受け入れることができるようになる。その受け入れが、次第に心に柔軟性をもたらし、少しずつ軽くなる。その軽さが、心の中でどんどん広がっていくのを感じるんだ。
森田療法の付加価値は、感情や思考に対して無理に反応せず、静かに受け入れることで心の中に変化を促すことにある。それは、波のように感情を感じることを許し、行動を通じて少しずつ心が軽くなるという静かなプロセスともいえる。
また、森田療法は、ただ静かに受け入れるだけではなく、同時に「行動する」ことを大切にしている。心が重くても、手を動かして何かを始める。体が動くことで、心も少しずつ動き出す。その行動が、心を治療する一部であることに気づく時がある。何かを始めることで、心の枠が広がり、次第に不安や恐れが薄れていく。それは、波のように感情を感じることを許し、行動を通じて少しずつ心が軽くなるという静かなプロセスでもある。
繰り返すが、森田療法の付加価値は、無理に心をコントロールしようとしないところにある。その代わりに、心をそのままで受け入れ、行動を通じて、少しずつ変化していく力を養うことだ。最初は見えなかった変化が、ある時ふっと目の前に現れる。その瞬間が、きっと森田療法の最も大きな贈り物なんだと思う。
令和7年3月下丸子土曜集談会-3月29日(第5土曜日)開催
3月は第5土曜日が開催日になりますのでご注意ください。
大田区民プラザ3階 第4会議室が常設会場になります。