「ひとりで老いる」というテーマは、現代社会においてますます注目されている問題です。ひとりで年を重ねることには、個人的な意味、意義、そして目的が含まれており、その考察には多くの角度からアプローチできるでしょう。

 「ひとりで老いる」ということは、一般的には、家族やパートナーなど、社会的な支えが少ない状況で年を取ることを指します。しかし、その意味は単なる孤独だけにとどまらず、個人の独立性や自己責任の強化にもつながります。社会的な繋がりが希薄になる中で、自分自身と向き合い、自己を見つめ直す機会ともなります。

一方で、ひとりで老いることには寂しさや不安も伴うかもしれません。孤独感やサポートがないことによる精神的な負担が増す可能性もあります。このような意味では、ひとりで老いることは「生きる力」や「生存の挑戦」を意味することもあります。

ひとりで老いることの意義は、個人の成長や自己実現の機会が含まれています。他者に頼らず、自分のペースで生活をデザインできる自由さや、選択肢を持つことができます。こうした自由は、自己決定権を持つことによる充実感や満足感を生むことがあり、精神的な強さを養うことにもつながります。

また、ひとりで老いることで、他者と過ごす時間の価値が再認識されることもあります。社会的な繋がりが減少する中で、友人や地域との関わりがより大切になり、コミュニティを築く重要性を再認識することがあります。わたしたちのメンタルヘルス活動の意義もここにあります。

ひとりで老いることと「他者との触れ合い」というテーマは、老後の生活における重要な側面であり、心身の健康や精神的な幸福に大きな影響を与えます。それぞれがどのように関連し、どのような意味を持つのかを考えてみましょう。

ひとりで老いることの現実を考えるとき、ひとりとは物理的に誰かと同居せず、孤独に年を重ねるという状況を意味します。この状態は、時に自由を感じさせる一方で、孤独感や孤立感を深めることもあります。

自由と独立の側面では、ひとりで老いることで、生活や時間の使い方、自己決定に対する自由度が増します。誰かに縛られることなく、自分のペースで物事を進めることができるため、精神的に自立した生き方を送ることができます。

一方で孤独感と精神的健康の側面では、他者との物理的な接触が減ることにより、孤独感が増す場合があります。特に年齢を重ねると、身体的な制約や外出の機会が減り、社会的な孤立が深刻化することもあります。孤独が長期間続くと、うつ病や認知症のリスクが高まることも報告されています。

とても大切なことは、他者との触れ合いの重要性です。人間は社会的な動物であり、他者とのつながりが心身の健康にとって非常に重要です。年齢を重ねると、周囲との関係性が変化することがありまが、他者との触れ合いの意義は変わりません。

もっと具体的には、精神的な支えが先ず上げられます。
他者との触れ合いがあることで、感情的な支えを得ることができます。家族、友人、近隣の人々との関係は、悩みを共有し、喜びを分かち合うための大切な存在です。特に高齢になると、困難に直面することが増えますが、その際に他者の存在が支えとなり、精神的な安心感をもたらします。

身体的・社会的な健康面では、他者との関わりは身体的な健康維持にもつながります。例えば、友人や家族と定期的に会うことで、外出や運動を促進することができ、健康的なライフスタイルを維持することが可能です。また、社会的なつながりは、脳の健康にも良い影響を与え、認知機能を保つ助けになります。

同様に生きがいの提供にもつながります。
他者との交流は、生きがいを感じる源でもあります。人と触れ合うことで、社会とのつながりを実感し、自分が他者のために存在する意味を見出すことができます。ボランティア活動や地域活動など、他者との共助を通じて満足感や喜びを得ることも、人生のクオリティを高める要素となります。

 最終的には、独りで老いることと他者との触れ合いをどうバランスを取るかが重要です。

  • 自分のペースと他者との関わり
    独りで老いることの自由を享受しつつも、他者との関わりを意識的に持つことが大切です。例えば、独りで静かな時間を楽しみながら、友人とのランチや地域活動に参加することで、孤独感を和らげることができます。

  • テクノロジーを活用したつながり
    現代では、インターネットや電話、ビデオ通話などを使って、物理的に離れていても他者と簡単に触れ合うことができます。これらのツールをうまく活用することで、実際に会わなくても交流を持つことができ、孤立感を減らすことが可能です。

まとめとして、ひとりで老いることと「他者との触れ合い」は、相反するように見えるかもしれませんが、実際には互いに補完し合う関係にあります。独りでいることで得られる自由や独立性を享受しながら、他者とのつながりを意識的に大切にすることで、心身の健康を保ちながら充実した老後を送ることができるでしょう。孤独感や孤立感を感じたときには、無理なく他者との交流を増やし、バランスの取れた生活を築いていくことが大切です。

 
 
読売新聞に素晴らしい記事がありましたので掲載させていただきます。

【77歳、借家でひとり暮らし】「ここからの人生は楽しみしかない」ノンフィクション作家・松原惇子さん                          読売新聞 公開日 2025.02.07

 

『ひとりで老いるということ』『孤独こそ最高の老後』など、多数の著書を執筆し、おひとりさま女性を応援し続けている松原惇子さん。「喜寿なんて全然嬉しくない」けれど、ひとり暮らしの充実度は若い頃よりも高まっているそう。その秘訣を伺いました。

デビュー作の『女が家を買うとき』で注目を集め、3作目の『クロワッサン症候群』がベストセラーに。

NPO法人SSSネットワーク代表。近著に『70歳からの手ぶら暮らし』など。

持ち家も、母も失い、ないない尽くしに39歳のとき、『女が家を買うとき』で作家デビューした松原惇子さん。以来、一貫して「ひとりの生き方」をテーマに執筆や講演活動を行い、1998年にはおひとりさま女性をつなぐ団体 “SSSネットワーク” を設立し、今も活動を続けている。

 

おひとりさまのプロともいえる松原さんだが、77歳の今こそ、「ひとりの人生が本当に充実している」と感じるそうだ。

「若い頃のひとり暮らしは、今思えば気楽でした。自分の家を買って、好きなように暮らしていましたから。ところが、持ち家は65歳のときに水漏れ事故が原因で手放すことになります。そして75歳で愛猫を、その翌年には母を亡くしました」

母を亡くした後は自分でも信じられないほど落ち込んだ。

「母とはもともとあっさりした関係で、10年ほど前に一時は同居したものの、一緒に暮らすのがこんなに大変なものかと別居に戻ったくらい。それがいざ母が亡くなると、本当にひとりぼっちになったんだというどうしようもない辛さに襲われました」

 

「頑張ってね」などというわかりやすい言葉こそなかったが、母は確かに、どんなときも自分を応援してくれていた。その存在がもうない……。落ち込んだどん底で、さまざまなことを考えた松原さん。そのうちに、少しずつ大切なことが見えてきたという。

「家があるとか家族がいるとか、幸せってそういう条件ではないんです。大切なのは持ち物の数ではなく、自分の心のもちようではないでしょうか。77歳で借家、ひとり暮らしで国民年金もごくわずかの私は、はたからは不幸の条件がそろっているように見えるかもしれません。でも私自身は今、自分の人生をちゃんと送っているという充実感を覚えて生きています」

松原さんが代表を務めるSSSネットワークで建立した「女性のための共同墓」。年に一度、追悼会を開き、会員の集いの場になっている。

自由こそ、ひとりの最大のメリットないない尽くしのひとり暮らしでも、毎日を機嫌よく楽しく過ごす松原さん。その秘訣とは?

 

「いちばん大切なのは、“ひとりは寂しい” という固定観念を捨てること。私のようにずっとシングルできた人はまだしも、長く連れ添った伴侶を亡くした人などは、“ひとり” に対してマイナスイメージを抱くのではないでしょうか。まずはそこを変えましょう」

女性のほうが長生きする現実。今は家族がいても、将来ひとりになる女性は多い。松原さんはそんな人にも、今のうちから“ひとり” に対する考え方をリセットし、いざというときに楽しく暮らせる術を学んでおくことを勧める。

「ひとりの最大のメリットは自由です。誰かと暮らしていたら、気をつかって相手に合わせる部分が必ずあるもの。でもひとり暮らしは100パーセント、自由です。この自由こそ大事なものだと自覚して、この先は100パーセント楽しく暮らそうとポジティブに考えることが第一歩です」

 

自分サイズの家での丁寧な暮らしが生きるベースに

では、楽しく暮らすために必要なことは何だろうか。

「単純なことですが、日々の暮らしを丁寧にすることではないでしょうか。以前、禅宗の住職に仏教でいちばん大切なことは何かと質問したのですが、その答えがまさにこれでした。悟りでも真理を究めることでもなく、掃除や食事といった暮らしをきちんとすることが大事。これを聞いて、私は母のことを思い出しました」

ロボットかと思うほど規則正しく暮らし、塵ひとつ残さず掃除をして花を生けていた母。

 

「母は78歳で夫と死別し、生まれて初めてひとり暮らしをすることになったんです。専業主婦でしたし、どうなることかと思ったのですが、自分のリズムをつくって暮らしを見事に立て直しました。その頃の私にはわからなかったのですが、母は生活を整えることで心を整えていたんですね」

今は松原さんも規則正しい生活を心がけている。朝はラジオ体操や軽いウォーキングをし、丁寧に入れたコーヒーを飲む。

「食事もできるだけ3食規則正しくとるようにすると、その合間の時間をどう過ごそうかと前向きな気持ちがわいてきます」

ひとり暮らしを輝かせる趣味の力

自由な時間をどう楽しむか。それには、「好きなことをするのがいちばん」と松原さんは言う。

「手芸や絵画、料理、俳句……。何でもいいのですが、時間を忘れて没頭できるものをもっている人は強いですね。たまに自分の好きなものがわからないという声も聞きますが、そんなときは子どもの頃のことを思い返すといいですよ。私はレース編みや刺しゅうなどの手芸が大好きでした。大人になり仕事が忙しくなって忘れていましたが、自由な時間が増えた今、また楽しんでいます」

 

子どもの頃から手芸が大好きだった松原さん。今は、天然の花の表情を布で繊細に表現する布花作りにハマっている。「手先に集中していると余計なことを考えずにすみ、心が落ち着いてきます。あえて難しいものに挑戦して、出来上がったときの喜びを味わっています」

子どもの頃から手芸が大好きだった松原さん。今は、天然の花の表情を布で繊細に表現する布花作りにハマっている。「手先に集中していると余計なことを考えずにすみ、心が落ち着いてきます。あえて難しいものに挑戦して、出来上がったときの喜びを味わっています」

お花でもピアノでも自分ひとりで楽しめる趣味があるといい。

もうひとつ、松原さんが子どもの頃から好きだったのが音楽だ。

「ヴァイオリンやギター、マリンバなど、いろいろな楽器に手を出してきましたが、ピアノだけは弾いたことがなかったんです。死ぬまでにはやりたいなあと思って。だからね、昨年、始めたんです。77歳の初挑戦ですよ!」

ピアノを習おうと決めた途端、自分の中に力がみなぎってくるのを感じたそう。

「こんな年で始めるんだから、バイエルなんてすっ飛ばして、私の好きな曲、3曲だけでいいから弾けるようになりたいって先生に相談しました。『エリーゼのために』から始めて、今、ショパンの『別れの曲』に挑戦中です」

2週間に一度のレッスンに向けて、気がつけば夢中でピアノを弾いている。こんな集中力がまだ自分にあることも嬉しかった。

「いつかSSSネットワークの集会で披露しちゃうかもしれません。そのとき、昔から弾けたんでしょなんて疑われたら嫌だから、今のヘタクソな状態も証拠映像として録画しています(笑)」

趣味は何でもいいが、心底、打ち込むためには、目標を高く設定するといいと教えてくれた。

「手芸だったら超大作を作るとか、英語の勉強だったら英検をとるとか。それがモチベーションにつながると思います」

ピアノを始めてすぐ、黄色の電子ピアノに一目ぼれして購入。長続きするかしらという心配も吹き飛んだ。

「趣味に没頭していれば、余計な心配事をしなくなる」と松原さん。ひとり暮らしのベテランでも、もちろん心配事と無縁ではない。

「病気になったらどうしようとか、このまま年金でやっていけるのかしらとか……。でも、心配事って考えても仕方のないことがほとんど。病気を避けることはできないし、お金の問題も日々現実的に考えていくしかない。それでも不安になるのはなぜか。それは、欲があるからだと気づいたんです。健康でいたい、お金の心配なく暮らしたい。不安はそうした欲の裏返しなんですね」

 

母を亡くした後の自分を、「欲の塊になっていたみたい」と振り返る。この先、ひとりでどうするの、幸せになりたいのに……と。

「でも、“欲” ではなく“意欲”が大切だと思い至りました。趣味で目標を追い求めるのもいいし、私はまだ仕事もしているので、仕事を通してひとり暮らしの女性に元気を届けたいと思います」

日々の暮らしを楽しみ、意欲を枯らさないこと。意欲こそ、ひとり暮らしの頼もしい相棒なのだ。

ー「いつかはひとり」でも大丈夫!のヒントー

① “ひとりは寂しい” という固定観念を捨てる

世の中の「おひとりさま」への偏見はかなり薄らいできたが、案外、自分自身の中にマイナスイメージが残っていないだろうか。まずは「ひとりは楽しい」と自分の意識変革をすることが大切。

②好きなことを探し “没頭力” を身につける

時間を忘れるくらい打ち込める趣味をもっていると、ひとり時間が俄然、輝いてくる。さらに、趣味といえども目標を高くもつようにすれば、その時間の充実度は確実に高くなる。

③ “欲” を捨て、 “意欲” をもって生きる

健康、お金、安全など、ひとり暮らしに不安はつきもの。だが、その不安の根源は自分本位の欲なのではないか。無駄な欲を捨て、枯れない意欲を相棒に、前向きに暮らしていこう。