不安・恐怖は「よりよく生きたい」人間本来の感情…森田療法に感謝する人々、訪れる生家は朽ち果てるのを待つばかりに
読売新聞オンラインから
劣化が激しく、シートが屋根を覆う森田正馬の生家(香南市で)
精神療法の一つ「森田療法」を確立した精神科医・森田正馬(まさたけ)(1874~1938年)の推定築150年以上の生家が、今も高知県香南市の旧野市町内に残る。だが、近年は傷みが激しく、屋根のほとんどがシートで覆われている。市民や精神科医らでつくる保存会は、国の登録有形文化財への申請と修復に向け、市教育委員会と協議を続ける一方、5000万円を目標に募金活動を行っている。
【写真】森田正馬生誕地ー高知県香南市の生家
「森田正馬生家保存会」代表の池本耕三さん(76)によると、生家は高知県土佐山田町(現・香美市)から移築されたという。ただ、大工の名や棟上げ日などを記す棟札は見つかっておらず、詳しい建築時期は不明だ。
旧野市町は生家を買い取り、1996年から学校になじめない児童生徒らの集う「森田村塾」として活用。香南市発足後も、2011年まで使われていたが、耐震性が問題となり17年に向かいに新たな施設ができた。
空き家は朽ち果てるのを待つかのように手入れはされず、ここ2年でひどく劣化。雨漏りはおろか、室内に瓦が落ちていたこともあった。現在は黒いシートが屋根の大半を覆っている。
「その頃の市は『正馬さんは世間に認知されていない』と、保存に消極的だった」と池本さんは振り返る。
周知することで保存の機運を高めようと、没後80年の18年、日本森田療法学会や自助グループ、公益財団法人の協力で墓前祭が営まれ、高知市の県立県民文化ホールで開いた記念講演会には約1000人が集まった。市も方針転換し、保存会と話し合いを重ねている。
修復への気概を示そうと、保存会は今年6月、会員約400人に向け、募金を呼びかけ。市には毎月寄託しており、9月までに114人・法人から約680万円が集まった。中国の森田療法の学会も賛同の意向を示しているという。
「今の私があるのは森田療法のおかげ」と生家や墓を訪れる人は絶えない。生誕150年を迎える24年には、高知県内で学会が開かれる予定で、池本さんは「郷里の先達『しょうまさん』を後世に伝えることは、心の健康に関心を持つことにもつながる」と意義を語る。
寄付は1口個人1000円、法人5000円(何口でも可)。振込先は保存会のゆうちょ銀行の口座(店名一六九 当座預金0102177)。振り込み依頼人の名義変更機能を必ず利用し、郵便番号、住所、氏名、電話番号を入力する。
寄付者には確定申告に必要な「寄付金受領証明書」が市から送られる。問い合わせは池本さん(morita-hozon@mx7.tiki.ne.jp)。
◆森田療法=不安や恐怖は「よりよく生きたい」人間本来の感情であって、排除すべきものでないとする。また、「こうあるべきだ」といった「とらわれ」からも脱し、あるがままの自身を受け入れ、建設的な生き方の実現を援助する。近年は神経症に限らず、慢性化したうつ病やアトピー性皮膚炎患者らの心身症、がん患者らにも応用されている。